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京都地方裁判所 昭和37年(ワ)114号 判決

理由

被告が訴外江崎正一から同人所有の別紙目録記載の不動産を含む全不動産を買受けこれについて原告主張の登記をしたことは、当事者間に争いがない。

そして(証拠)によると、原告は昭和三六年四月二三日から同年七月二五日までの間に五回にわたり前記訴外人から代金合計二〇八、二六五円に相当する屋根工事を請負い同年七月二七日までにこれを全部施工したことが認められる。

原告は右工事を同年二月から請負つたと主張しているけれども、原告の右主張は認められない。

ところで原告は訴外江崎正一と被告との間の前記不動産についての売買契約は原告の右訴外人に対する前記請負代金債権を詐害するものであると主張するので考えてみる。(証拠)によると、右売買契約の成立日時は昭和三七年一月一七日であり前記登記のなされた日時は同年同月一八日であることが認められ、(証拠)によると、右売買契約は次のような経緯で成立したものであることが認められる。すなわちまず右各証拠によると、訴外江崎正一は昭和三六年二月三日被告に対し一八八七〇〇〇円の借金債務があることを認めこれを同年三月三一日までに全額弁済すべくもし右期日までに弁済しないときは被告に対し前記不動産の所有権を時価相場で譲渡しその代金債権と右借金債権とを対当額で相殺する旨を約したことが認められ、右約束は債務確認履行契約前記不動産についての売買一方の予約並びに相殺の予約であると認めるのを相当とするところ、更に右各証拠によると、右訴外人はその後被告に対し右借金債務を右期限内に弁済しなかつたので被告は右訴外人との間で右の売買一方の予約並びに相殺の予約に基き売買代金を二五〇万円と協定したうえ右訴外人に対し右各予約完結の意思表示をしかくて被告と右訴外人との間に前記売買契約が成立したことが認められる。右認定に反する原告代表者本人の供述は右各証拠に照して措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

ところでおよそ詐害行為取消権が発生するためには、まず客観的要件として、債務者が債権者を害する法律行為をなしたことを要するし、また債権者を害するというがためには債権者の債権が右法律行為以前に発生したものであることを要する。ところが前記認定事実からすると、原告が取消を求める前記売買契約は前記売買一方の予約に基き被告の一方的な予約完結の意思表示により成立したものであつて訴外江崎正一はその際右意思表示を受領しただけで自らは何らの意思表示をしていない(たとえしたとしてもそれは法的には無意味な行為であるにすぎない)ことは明らかであり、また右訴外人が被告と前記売買一方の予約を締結した際は原告の前記債権は未だ発生していなかつたことが明らかである。従つていずれにしても本件は詐害行為取消権発生の要件を欠くこととなる。

そうだとすると、本訴請求は、そのほかの点について判断するまでもなくすべて失当であるから、これを棄却。

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